介護

  • 2017.03.28 Tuesday
  • 11:03

  介護            つむぎ文集104

 若年性認知症の主人は、発症から一年間は自宅で暮らせました。幻視・幻聴があり、玄関に妹が来たから出てくれとか、誰もいないのに見えるようでした。

 なにより一番困ったことは、部屋の中でも車の中でも、一瞬にして私が他の誰かと替わってしまい「どうやってここまで来たの?」と、会話も変わっています。朝刊もさかさまに手にして、ただ見ている姿にも、驚きました。

 夜はすべての部屋の電気をつけて、テレビの音は大きくします。夜中じゅう袋の中に衣類を入れて、ゴルフへ出かける支度をしています。袋は三つも、四つも作ります。ゴルフのクラブ手に持てるだけ持ち、明け方になると大荷物を持って玄関を出ます。私が気付くと、スリッパが揃えてぬいでありました。あわてて車のカギを持ち外に出て追いかけます。

 トボトボと歩く主人に声を掛けます。空は明るくなりかけ、行き交う車は新聞配達のオートバイだけでした。道端にある自動販売機で缶コーヒー買い、二人でのみ、言葉にはなりません。

 自宅に戻り車から大荷物を降ろしていると、近所の人が不思議そうにこちらを見ている姿が、背中越しに感じられて辛かったです。

 高齢者の認知症とは大きく違い、症状の進み方が早く、毎日の変化に戸惑いました。トイレでのいきみを忘れて、どうしてよいものか迷っていました。

 私が外から「どうしたの、大丈夫?」と声をかけると嫌がります。本人の不安は日増しに大きくなっていき、行動も荒くなってきました。

 夕食は早めて、睡眠導入剤とお酒を飲ませて寝かせました。私は眠りを確認して、夜のスーパーに買い物にいきます。この時間だけは安心して、入浴もできました。しっかり睡眠をとった主人は、朝から元気な様子です。七時にはパジャマ姿に帽子をかぶり、徘徊モードです。私はその姿を見て、今日も戦争だなと元気をなくします。

 ゴールデンウィークの始まりの日でした。「車のキーを渡せ」と、私に強くせまります。「・・なくした・・」と苦しまぎれに答えたら、大騒ぎで探し始めて家の中は、ゴチャゴチャになりました。

 その頃、私一人での介護は無理と思い、主治医にグループホーム入所を決めてもらいました。五月一日オープンの新しい施設に、特別に四月末日に入所させていただきました。

 三ヶ月間は面会禁止で、九月の上旬の「家族会」で久しぶりに顔を見たら、大喜びで迎えてくれました。

 この年のグループホーム入所から、介護を他の人に委ねた私は、自分の思いとは違う部分と心は闘いましたが、八年が過ぎようとしています。

                          藤原 多津子

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